足元に置かれた、無骨な黒い鉄の塊。 暗闇で怪しく光る蓄光塗料のロゴ。 ProCo RAT 2。通称「ラット」です。

「これ、ディストーションだよね?」 「古いし、音が古臭いんじゃないの?」
もしそう思っているなら、あなたはRATの恐ろしさをまだ知りません。 こいつは単なるディストーションではありません。ツマミの設定ひとつで、枯れたブルースから、世界を破壊するような爆音ファズまで変化する「歪みのカメレオン」です。
今回は、ジェフ・ベックから椎名林檎まで、ジャンルを超えて愛されるこの「黒いネズミ」の魅力と、初心者が陥る「ツマミの罠」について解説します。
1.1台で3役? 驚異の可変幅
普通のディストーションは、歪みを下げると「元気のない音」になりがちです。 しかし、RATは違います。「DISTORTION」ツマミの位置によって、全く別のペダルに変身するのです。
極上のクランチ(Overdrive) 「ジャキーン!」とした歯切れの良さ。カッティングに最適で、高級なオーバードライブのような音がします。
王道のロック(Distortion) これぞRAT。太くて粘りのある、図太いリードサウンド。Foo Fightersのような壁のような歪みです。
崩壊した轟音(Fuzz) ここからがRATの真骨頂。音が潰れ、サステインが永遠に伸びる「ファズ」のような音になります。シューゲイザーやオルタナ系に必須の音です。
つまり、RATを1台持っておけば、ポップスからグランジまで全対応できるのです。これが「最初の1台」に推される最大の理由です。
2.初心者殺しの罠「FILTER」ツマミ
RATを買った初心者が一番最初に戸惑うのが、真ん中にある「FILTER(フィルター)」というツマミです。
普通のペダルの「TONE(トーン)」は、右に回すと音が明るくなりますよね? RATは逆です。
RATのFILTERは「右に回すと音がこもる」!
これは「ハイカット・フィルター」という仕組みです。
- 左に回しきる: 一番キンキンした鋭い音(MAX)
- 右に回していく: 高音が削られて、マイルドになっていく
「時計回りに回すと、音が太く(暗く)なる」と覚えてください。 このクセを知らずに「あれ? 音が抜けない?」と悩む人が後を絶ちませんので、ここだけはテストに出ます。
3.日本のロックとRATの蜜月関係
特に日本のバンドシーンにおいて、RATは特別な地位を築いています。 90年代〜00年代のオルタナティブ・ロック、いわゆる「下北系」や「轟音系」のギターサウンドは、大抵RATで作られています。
・NUMBER GIRL(田渕ひさ子氏) あの鋭利な刃物で切り裂くようなジャキジャキのカッティング。
・椎名林檎(初期) 「丸の内サディスティック」などで聴ける、少し歪んだセクシーなトーン。
「あの時代の、あの焦燥感のある音」を出したいなら、最新のハイエンド機材ではなく、RATを踏むのが最短ルートです。 JC-120(ジャズコ)との相性も抜群で、硬いアンプの音をイイ感じに汚してくれます。
4.中古ショップ的視点:戦車並みの頑丈さ
RATのもう一つの魅力。それは「とにかく壊れない」ことです。 筐体は分厚い鉄板でできており、ちょっとやそっと踏みつけたぐらいではビクともしません。
- 中古でも安心 構造がシンプルで頑丈なため、中古でも動作不良が少ない優等生です。
- 電池のフタだけ注意 唯一の弱点が裏面の「電池のフタ」。ここだけ無くしやすいので、中古で買う時はフタがあるかチェックしてください(無くても音には関係ありませんが)。
何十年も前のRATが今でも現役で取引されているのが、その耐久性の証明です。 まさに「一生モノ」の相棒になり得ます。
まとめ:優等生な音に飽きたらコレ
最近のエフェクターは「ノイズがなくて、綺麗で、整った音」がトレンドです。 でも、ロックってもっと「汚くて、荒々しくて、危険なもの」じゃなかったでしょうか?
RATの音には、その「危なさ」があります。 コードを一発鳴らしただけで、空気がビリビリと震える感覚。
「優等生な音作りはもう飽きた」 そんなあなたの野生を呼び覚ますのは、この黒いネズミかもしれません。



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